年金法大改正「年金改革関連法案」
少子高齢化が急速に進む中、年金制度の立て直しと、シニア世代の活躍を後押するかたちで2020年3月3日に「年金改革関連法案」を国会に提出しました。
政府が進める全世代型社会保障改革の一環で、被用者保険の適用拡大や公的年金(国民年金、厚生年金)、私的年金(企業年金、個人年金)等、多岐にわたる改正内容になっており、企業実務への影響が大きい内容となっています。
今回は主に公的年金の改正を取り上げています。企業年金に関しては「年金改革関連法案・中小向け企業年金拡大」をご覧ください。
公的年金の主な改正内容は、以下の4項目が挙げられます。
- 短時間労働者等に対する被用者保険の拡大
- 公的年金の受給開始時期の選択肢の拡大(繰り下げ受給の拡大)
- 60歳~64歳の在職老齢年金の支給停止額の引き上げ
- 65歳以上を対象に在職中に年金額の改定を行う在職定時改定の導入
<短時間労働者等に対する被用者保険の拡大>
パートなど短時間労働者への厚生年金の適用拡大をするものです。
現在は、フルタイムなどの従業員数501人以上の企業で、短時間労働者(※)の加入が義務付けられています。
※(週所定労働時間20時間以上、雇用期間1年以上見込まれる、賃金月額8.8万円以上、学生でないこと など)
改正で、短時間労働者501人以上という企業規模要件が、以下のように段階的に引き下げられます。
- 2022年10月に101人以上
- 2024年10月に51人以上
改正後の企業規模要件の51人以上・101人以上という従業員数は、週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上の者の人数を算定し、それ未満のパート労働者は含みません。
該当する企業は、適用対象となる短時間労働者の人数を把握し、社会保険料の試算を行い、負担増しを把握することが重要です。
<公的年金の受給開始時期(繰り下げ受給)の選択肢を拡大>
現行の公的年金は、希望すれば原則65歳の受給開始を最大5年間、70歳まで遅らせることができますが、改正では選択できる年齢を更に5年延ばし、75歳まで繰り下げを可能にすることが盛り込まれました。
繰り下げ受給による年金月額は、現行の70歳受給開始で42%の増額、改正後の75歳受給開始の場合の年金月額は84%の増額となります。
現在、繰り下げ制度を利用している人は2018年度末時点で、老齢基礎年金で1.7%、老齢厚生年金で1.2%にとどまっており、長生きへの不安が利用率低迷の主な原因と考えられます。
(施行時期)2022年4月1日
<60歳~64歳の在職老齢年金の支給停止額の引き上げ>
現在、在職老齢年金制度の支給停止額は、60歳~64歳の場合が28万円、65歳以上の場合が47万円と2種類がありますが、改正により47万円に統一されます。
改正で、60歳~64歳時の賃金と年金の合計月額が47万円以下なら年金の減額がないことになり、これから年金支給開始年齢の引き上げが続く60歳台前半の女性の就労を後押しするものと思われます。
現役の年金受給世代で最も相談が多く関心の高い在職老齢年金制度ですが、支給停止額の引き上げにより再雇用時の賃金調整が容易になります。
(施行時期)2022年4月1日
<65歳以上対象の年金額の改定を行う在職定時改定の導入>
現在、年金額の増額は退職時か70歳到達時を待つ必要がありましたが、改正で69歳まで毎年、保険料納付に応じて年金が増えるようになります。
これにより、就労時間延伸分の年金額の増加分を、退職を待たずに受給できますので、就労による賃金と年金を合わせて生計を立てている人には朗報となります。
年金額の増加(※)がわずかでも、就労による年金額増加が目に見える形となり、従業員のモチベーションの維持・向上にもつながると思います。
(※)社会保障審議会年金部会の資料によれば、月額20万円で1年間就労した場合、年金額は年間1万3千円程度の増額となります。
(施行時期)2022年4月1日